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静岡地方裁判所 昭和43年(わ)416号 判決

被告人 天野昭二

昭一九・一〇・二生 工員

主文

本件公訴を棄却する。

理由

本件公訴事実は

「被告人は、昭和三九年一一月一八日静岡地方裁判所において傷害罪により懲役六月、昭和四一年七月六日静岡簡易裁判所において傷害罪により罰金二〇、〇〇〇円、昭和四二年一二月二七日静岡地方裁判所において傷害罪により懲役六月にそれぞれ処せられたものであるが、常習として

一  昭和四三年九月一日午後八時五〇分ごろ、清水市巴町一一九の四番地「東寿司」附近路上において、北村三郎(当三九年)が被告人の内妻天野十三四と立話をしていたことに憤激し、「俺の女に気安く話しかけやがつて」と申し向け、やにわに、同人の顔面を皮バンドで一回殴打した上ビール瓶ようのもので同人の頭部を一回殴打し、よつて、同人に加療約一週間を要する頭部外傷、左耳介部切創の傷害を負わせ

二  同日午後九時三〇分ごろ、同市旭町八八の二、通称「みんくす」ビル二階において、右三郎の実兄北村嘉一(当四二年)に対し「お前の舎弟が俺の女にいちやいちやしやがつて」と言いがかりをつけ、同人の胸ぐらを掴み下着を引裂くなどの暴行を加え

三  同年一〇月一九日午前〇時三〇分ごろ、同市巴町九四番地々先路上において、女連れで通行中の原口久(当二三年)を冷笑したところ、同人がこれに憤慨したので、同人と喧嘩になり、同人の頭部を約一〇センチ四方のコンクリートの塊で一回殴打し、よつて、同人に対し、加療約一〇日間を要する頭部挫創の傷害を負わせ

たものである。」

というのである。

よつて、右起訴状の傷害罪の各前科の記載が刑事訴訟法第二五六条第六項に違反するか否かにつき、検討するに、起訴状に被告人の前科を記載することは、それが裁判官に事件につき予断をいだかせるおそれがある限り、訴因の構成要件の内容となつている場合(例えば常習累犯窃盗)又は訴因の事実上の内容となつている場合(例えば前科の事実を手段とする恐喝)のごとく、訴因を明示するのに必要な場合においてのみ許されると解すべきところ、(最判昭和二七年三月五日刑集六の三の三五一参照)本件傷害の各前科の記載は、本件常習傷害の訴因につき、その常習性の具体的説明として記載されたもので、その構成要件の必要的内容をなし、又はその事実上の内容をなす場合でなく、右訴因を明示するために必要なものとはいえず、かつ、裁判官をして傷害の常習性及び各個の傷害、暴行の行為につき、予断をいだかせるおそれがあるものと認められるので、かかる前科を記載した本件起訴状は前記法条に違反し、無効のものというべく、刑事訴訟法第三三八条第四号に則り本件公訴を棄却することとする。

(裁判官 岡本二郎)

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